洋麺屋五右衛門のゴキブリパスタと、虫ケーキ

もう2〜3年前の話ですが・・・。

大阪の梅田にある「洋麺屋五右衛門」というパスタ屋さんに、毎週と言っても良いくらい通いつめていた時期があります。
ここのパスタは高いけれどとてもおいしくて、特にタラコカルボナーラなどはオススメでした。


私は、ハーフ&ハーフという2種類のハーフサイズのパスタが同時に食べられるセットのCセットというものを良く注文しました。これはカルボナーラ炭焼人風というパスタと地鶏の和風ペペロンチーノというパスタがセットになっているものでした。


ある日、友達と五右衛門に行き、いつものようにハーフ&ハーフのCセットを頼みました。
ペペロンチーノを食べて口の中をピリピリ?させたあと、カルボナーラクリーミーな状態にして落ち着かせる、そのような個人的にお決まりの食べ方で食べていました。
しかし、その日のカルボナーラはいつものようにまろやかな甘みが無く、ちょっと酸っぱくて苦いような感じがしました。
しかし、最初は「ペペロンチーノ側の香辛料の分量を間違えて、ちょっと味覚が狂ったのかな」と解釈して食べていました。しかし、カルボナーラを食べていくにつれ、パリパリというピーナッツの薄皮?をかじっている様な食感がたまにして、「別料理の何らかの材料が混入してるのか?」と疑いながらもモリモリ食べていたのですが、カルボナーラが残り少なくなってラストスパートしている時に、ふと食器の中に虫の足のようなものが沈んでいるのを見つけました。


「!?」


頭の中がパニックになりながらも、その正体を突き止めようと、必死で残り少ないカルボナーラをかき回して別のパーツを探しました。良く見るといろいろなパーツが散乱していましたが、決定的なパーツ、茶色をしたゴキブリの羽が一枚見つかりました。


パーツの散乱具合からすると、調理前または調理中に混入して、フライパンの上でかき回されたのは明らかです。だって、調理後に混入した場合は原型をとどめているはずですから。


カルボナーラはもともと白濁していて何かが混じっていても非常に分かりにくく、最後の最後の方まで気づく事が出来ませんでした。
普段、鍋料理に入れる野菜に非常に小さな虫が一匹付いていてそれが茹でられて虫が浮いている光景を見ただけでも、その鍋料理を食べないくらいに虫には神経質なのですが、まさか外食で食べる食事の中に虫が入っているとは思っていませんでしたので、全く無警戒に食べていました。


洋麺屋五右衛門でのゴキブリとの出会いは、パニックを通り越して頭の中が真っ白になるくらいであり(その場に居合わせた友達の話では、真っ白ではなく顔が真っ青になっていたらしい)、どうしてよいのか分からず、とりあえず店員を呼ぶのが精一杯でした。


店員を呼んでゴキブリの散乱した死体を見てもらい、状況を把握してもらいました。
店員はすぐにゴキブリだと認識し、パスタを引き上げて「大丈夫ですか?」「すみません」「ジュース持ってきましょうか?」と他のお客さんには気づかれない程度の声で対応して来ました。

最初はウェイトレスのおねえさんがこのような対応をしていたのですが、ジュースを飲んでそのままレジの方へ向かうと、男の人(誰かは不明)が出てきて、「すみませんでした。お連れ様の分を含めて、お代は結構ですから」という挨拶がありました。


私はまだ頭の中が真っ白で、とにかく家に早く帰って歯磨きして寝たいと、ただそれだけの事しか思い浮かばなかったので、今冷静になって考えるとこっちが怒って「どういうことだ!何故こんな事になったのだ!」と店長を呼びつけて怒鳴りつけて居ただろうシチュエーションでしたが、とにかく何も物言わずにその場を離れる事だけが精一杯でした。

最後、店から出る時に、男の人の横に居た女性店員から普通に「また、よろしくおねがいします」と言われた時は、さすがにカチンと来ましたが、既に背を向けた状態だったので敢えて突っかかる事はありませんでした。


その日から、ゴキブリの味や死体パーツを思い出す夢ばかりを見続けました。変な汗が出て起きることもしばしば。男として情けないと思いつつも、ゴキブリには勝てませんでした。

追い討ちを掛けたのは、事件から4日くらい経った日の事です。
歯磨きをしていると、奥歯の奥の方で違和感を感じ「歯と歯の間に何かが挟まっている!」ということに気づきました。たまたま家にあったデンタルミラーとつまようじを駆使しながら、その挟まっているものを取り出すと、ゴキブリの足が一本(1関節分ぐらいの小さなもの)出てきました。

これには腰を抜かしました。
4日間もゴキブリの足をしゃぶっていたのです。4日間もゴキブリの足を愛撫し続けていたのです。ありえません。
本気で洋麺屋五右衛門に火を付けたいと思うほど、洋麺屋五右衛門を憎みました。
そして、早くゴキブリを食した事を忘れようと努力しました。
少なくとも1ヶ月間は精神的な苦痛を味わい続けました。


それから、長い期間、洋麺屋五右衛門には足を運びませんでした。当然ですが。



そして、先日。家の近所に洋麺屋五右衛門がオープンしている事を知りました。
洋麺屋五右衛門 伊丹店 です。

あれから長い年月が経ち、ハーフ&ハーフのCセットの味が恋しくなり、自問自答すると、ゴキブリと天秤に掛けたところCセットの方が上にある事に気づきました。

久々のCセット、やはりおいしかった。虫が入っていないか、かなり詳しく調べてしまいましたが。
Cセットにはデザートが付いています。ショートケーキを頼みました。
ショートケーキが食後に出てきました。ケーキのスポンジ部分がフィルムで保護されていました。フィルムをはがしている時、フィルムとスポンジの間に、ペッシャンコになった小さな虫が挟まっているのに気づきました。

腹が立ちましたが、まだ口にしていなかった分、冷静でした。
敢えて店員を呼びつけたりすることはせず、フィルムを虫を強調するような形に折りたたんで、ケーキの横に据え置き、手付けずのケーキを残して店を出ました。


「もう洋麺屋五右衛門には行かない」と、心に誓いました。
そして、今でも受けた苦痛に対する慰謝料を分捕りたいくらい憎んでいます。
ゴキブリ事件後の精神状態は、今冷静になって考えてみると、異常でした。
食べる前に見つけたのではなく、衛生害虫をほとんど食べてしまったのですから。
味も食感も知っていますし、焼きついています。良く耐えて乗り切ったなと思います。
店員にも同じ目に合わせたかったです。
洋麺屋五右衛門はどういう衛生管理を行っているのでしょうか?
機会があれば話を聞いてみたいです。


ゴキブリ事件の事はみんなに知ってもらいたいと、フラッシュバック覚悟で思い出しながら書きました。
そして、「お代」だけ無料にして引き取ってもらう、という一般的な対処方法にも警鐘を鳴らしたいです。その後の精神的苦痛は、一生続きます。